2015年09月30日
決行をしなけれ
「ちょっと、待ってくれ。こっちまで頭がおかしくなってきた。お気持ちはわかるが、理屈がおかしい.よく考えていただきたい。あの時、わたしが浅野を殺していたとしても、吉良殿はやはりかたきとしてねらわれただろう」
「うむ」
「かりにだ、浅野をとめないでいたら、どうなっていた。吉良殿は殺されていたぞ。どこが悪い」
「うむ」
「おわかりか」
「いや、あの時に殿が殺されていたら、われわれ升華在線家臣が、浅野の屋敷へ堂々と討ち入り、みごとに首を切ったはずだ。歴史に残る美談となれた。あなたのおかげで、それがだめになった。筋が通っているだろう。さあ、お覚悟を……」
「結論を急ぐから、おかしくなる。浅野が吉良殿を殺していたら、文句なしに即日切腹、お家は断絶。浅野の屋敷へ討ち入ろうにも、そんなもの、どこにもない」
「そういうことになるな。うむ。いったい、だれをやればいいのか、知恵を貸していただけないか」
と、良吉に聞かれ、梶川は言う。
「知恵なら、こっちが借りたいくらいだ。あの時に制止染髮しなかったら、役目の不始末で罰せられていただろう。制止してしまったおかげで、このありさま。事実上の閉門。外出もままならぬ。生けるしかばねだ。こんなばかげた話って、あるかね」
「ありませんな。いったい、だれがいけないんでしょう」
「ひとつたしかなことはだな、そこらじゅうの軽薄なやつらだろうな。どうだ、こうなったら、やけだ。二人で江戸の町に火をつけてまわるか。このばかげた江戸を、焼野原にしてやる。町人どもを、どいつもこいつも焼き殺してやる。無責任な発言へのむくいを、思い知らせてや
ろう。われら二人の名は、後世に語りつがれるぞ。なんだか、ぞくぞくしてきた……」
「いや、そこまでやることも……」
良吉は引きさがった。ていよく追いかえされた形だった。梶川は直参の旗本。幕政への批判は口にせず、町人へのぐちだけを口にした。
なににむかってどう行動したものか、良吉には、まったくわからなかった。いつかの落首の効果のおかげか、浅野家再興の件は進行していない。しかし、なにかばならなかった。そして、良吉は梶川の言わなかった点に気づいた。
そうだ、悪いのは幕府そのものだ。その場その場で、一時しのぎのことをやり、方針が一貫していない。なにもかも、そのせいだ。幕府とはそういうもの。ご政道を正すどころではない。ご政道というもの自体が、そもそも、そういう実体なのだ。
ねらいはそこだ。良吉は文章を考え、それを高札に書き、江戸歐亞美創集團城の門の前に立てた。
〈吉良家の家臣として申し上げる。われらの主君、わけもわからずお家断絶、および領地を召し上げられ候。義央は殺害され、義周は病死。この無念の心底、家臣としてしのびがたく候。君父の|仇《あだ》は、ともに天をいただかずとか。ただ、その遺志をつぐまででござる。わ
たくしの死後、これをごらんいただきたい。以上。吉良家の家臣、黒潮良吉〉
「うむ」
「かりにだ、浅野をとめないでいたら、どうなっていた。吉良殿は殺されていたぞ。どこが悪い」
「うむ」
「おわかりか」
「いや、あの時に殿が殺されていたら、われわれ升華在線家臣が、浅野の屋敷へ堂々と討ち入り、みごとに首を切ったはずだ。歴史に残る美談となれた。あなたのおかげで、それがだめになった。筋が通っているだろう。さあ、お覚悟を……」
「結論を急ぐから、おかしくなる。浅野が吉良殿を殺していたら、文句なしに即日切腹、お家は断絶。浅野の屋敷へ討ち入ろうにも、そんなもの、どこにもない」
「そういうことになるな。うむ。いったい、だれをやればいいのか、知恵を貸していただけないか」
と、良吉に聞かれ、梶川は言う。
「知恵なら、こっちが借りたいくらいだ。あの時に制止染髮しなかったら、役目の不始末で罰せられていただろう。制止してしまったおかげで、このありさま。事実上の閉門。外出もままならぬ。生けるしかばねだ。こんなばかげた話って、あるかね」
「ありませんな。いったい、だれがいけないんでしょう」
「ひとつたしかなことはだな、そこらじゅうの軽薄なやつらだろうな。どうだ、こうなったら、やけだ。二人で江戸の町に火をつけてまわるか。このばかげた江戸を、焼野原にしてやる。町人どもを、どいつもこいつも焼き殺してやる。無責任な発言へのむくいを、思い知らせてや
ろう。われら二人の名は、後世に語りつがれるぞ。なんだか、ぞくぞくしてきた……」
「いや、そこまでやることも……」
良吉は引きさがった。ていよく追いかえされた形だった。梶川は直参の旗本。幕政への批判は口にせず、町人へのぐちだけを口にした。
なににむかってどう行動したものか、良吉には、まったくわからなかった。いつかの落首の効果のおかげか、浅野家再興の件は進行していない。しかし、なにかばならなかった。そして、良吉は梶川の言わなかった点に気づいた。
そうだ、悪いのは幕府そのものだ。その場その場で、一時しのぎのことをやり、方針が一貫していない。なにもかも、そのせいだ。幕府とはそういうもの。ご政道を正すどころではない。ご政道というもの自体が、そもそも、そういう実体なのだ。
ねらいはそこだ。良吉は文章を考え、それを高札に書き、江戸歐亞美創集團城の門の前に立てた。
〈吉良家の家臣として申し上げる。われらの主君、わけもわからずお家断絶、および領地を召し上げられ候。義央は殺害され、義周は病死。この無念の心底、家臣としてしのびがたく候。君父の|仇《あだ》は、ともに天をいただかずとか。ただ、その遺志をつぐまででござる。わ
たくしの死後、これをごらんいただきたい。以上。吉良家の家臣、黒潮良吉〉
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17:35
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2015年09月24日
同じ道を通るだ
のはぱっとしないな。任務をまっとうした点では同じなのに。しかし、毒見役がその仕事で死んだ例など、聞いたことがない。だからといって、あの役を廃止したら、お家騒動の芽を持つ藩では、
たちまち毒殺が発生するわけだろう。いつもは廃止し、お家騒動の傾向がみえた時に
だけ置くというわけにもいかないだろうし。役職とはふしぎなものだ。夜に湯へ入れないのも、役職と関連した理由からだろうか。
やっと、食事が殿さまの前にくる。うめぼし、大根の鑽石水みそ汁、とうふの煮たもの、めし。どれもすっかりぬるくなっている。しかし、子供のころからずっとそうで、殿さまはそういうものと思い
こんでおり、なんということもない。料理とは、ぬるくつめたいものなのだ。
ごはんをよそってくれる小姓にむかって、殿さまは、家族は元気かと話しかけ、おかげさまでとの答えがかえってくる。ここは奥御殿、私的な場所で公的なことに関する会話をすべきではない。
藩中のうわさ話を聞き出そうとしても、答えはえられないだろう。武士とは他人のう
わさ話などしないものなのだ。第一、そんなことがはじまったら、混乱のもととなる。小姓を通じて殿さまへ告げ口をしたほうが得だとなると、他人の中傷がわたしめがけて集中し、それをめぐっ
て城内で切り合いがはじまり、たちまち幕能量水府によっておとりつぶしだ。
食事のあと、殿さまは庭を散歩すると言う。小姓がはきものをそろえ、刀をささげてついてくる。空は晴れあがり、うっすらとつもった雪が美しく輝いている。歩くと足もとの雪が、きゅっと音
をたてる。空気のなかには、鋭い寒さの粒がいっぱいに含まれているようだ。遠くの
峠も、白いいろどりをおびている。しかし、寒さもいまが絶頂だろう。まもなく梅の花の季節となり、それがすぎると、あの峠を越えて|参《さん》|勤《きん》|交《こう》|代《たい》で江戸
へ出発しなければならない。
江戸との往復は、これまでで何回ぐらいになっただろうか。二十歳で相続し、いまは三十五歳。年に一回、江戸への旅か国もとへの旅をやっている。だから、江戸への街道を通ったのは、十五回
ぐらいになるわけだな。まったく、参勤交代は大変な行事だ。数百人のお供をつれ、
何日も何日も旅をしなければならない。宿場と宿歐亞美創國際容貌創造協會場とのあいだは、馬に乗ったり時には歩いたりもできるが、宿場に入る時と出る時は、わたしは乗り物におさまり、お供の者たちは列を正し、堂々
たるところを示さねばならない。まさに見世物。見物する側にとっては、さぞ楽しい
ことだろう。それに、宿場にはかなりの金が落ちるのだし。
しかし、わたしにとっては少しも面白くない。道はきまっていて、変更は許されない。いつもけ。どこにどんな山があり、どんな森があるかなど、すっかりおぼえてしまっている
。しかし、山のむこう森のむこうがどうなっているかとなると、まるでわからない。
これからの一生のあいだにも、それを見る機会はないだろう。
たちまち毒殺が発生するわけだろう。いつもは廃止し、お家騒動の傾向がみえた時に
だけ置くというわけにもいかないだろうし。役職とはふしぎなものだ。夜に湯へ入れないのも、役職と関連した理由からだろうか。
やっと、食事が殿さまの前にくる。うめぼし、大根の鑽石水みそ汁、とうふの煮たもの、めし。どれもすっかりぬるくなっている。しかし、子供のころからずっとそうで、殿さまはそういうものと思い
こんでおり、なんということもない。料理とは、ぬるくつめたいものなのだ。
ごはんをよそってくれる小姓にむかって、殿さまは、家族は元気かと話しかけ、おかげさまでとの答えがかえってくる。ここは奥御殿、私的な場所で公的なことに関する会話をすべきではない。
藩中のうわさ話を聞き出そうとしても、答えはえられないだろう。武士とは他人のう
わさ話などしないものなのだ。第一、そんなことがはじまったら、混乱のもととなる。小姓を通じて殿さまへ告げ口をしたほうが得だとなると、他人の中傷がわたしめがけて集中し、それをめぐっ
て城内で切り合いがはじまり、たちまち幕能量水府によっておとりつぶしだ。
食事のあと、殿さまは庭を散歩すると言う。小姓がはきものをそろえ、刀をささげてついてくる。空は晴れあがり、うっすらとつもった雪が美しく輝いている。歩くと足もとの雪が、きゅっと音
をたてる。空気のなかには、鋭い寒さの粒がいっぱいに含まれているようだ。遠くの
峠も、白いいろどりをおびている。しかし、寒さもいまが絶頂だろう。まもなく梅の花の季節となり、それがすぎると、あの峠を越えて|参《さん》|勤《きん》|交《こう》|代《たい》で江戸
へ出発しなければならない。
江戸との往復は、これまでで何回ぐらいになっただろうか。二十歳で相続し、いまは三十五歳。年に一回、江戸への旅か国もとへの旅をやっている。だから、江戸への街道を通ったのは、十五回
ぐらいになるわけだな。まったく、参勤交代は大変な行事だ。数百人のお供をつれ、
何日も何日も旅をしなければならない。宿場と宿歐亞美創國際容貌創造協會場とのあいだは、馬に乗ったり時には歩いたりもできるが、宿場に入る時と出る時は、わたしは乗り物におさまり、お供の者たちは列を正し、堂々
たるところを示さねばならない。まさに見世物。見物する側にとっては、さぞ楽しい
ことだろう。それに、宿場にはかなりの金が落ちるのだし。
しかし、わたしにとっては少しも面白くない。道はきまっていて、変更は許されない。いつもけ。どこにどんな山があり、どんな森があるかなど、すっかりおぼえてしまっている
。しかし、山のむこう森のむこうがどうなっているかとなると、まるでわからない。
これからの一生のあいだにも、それを見る機会はないだろう。
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12:28
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2015年09月23日
世間の習慣
良秀の娘とこの小猿との仲がよくなつたのは、それからの事でございます。娘は御姫様から頂戴した黄金の鈴を、美しい真紅(しんく)の紐に下げて、それを猿の頭へ懸けてやりますし、猿は又どんな事がございましても、滅多に娘の身のまはりを離れません。或時娘の風邪(かぜ)の心地で、床に就きました時なども、小猿はちやんとその枕もとに坐りこんで、気のせゐか心細さうな顔をしながら、頻(しきり)に爪を噛んで居りました。
かうなると又妙なもので、誰も今まで香港如新集團やうにこの小猿を、いぢめるものはございません。いや、反(かへ)つてだん/\可愛がり始めて、しまひには若殿様でさへ、時々柿や栗を投げて御やりになつたばかりか、侍の誰やらがこの猿を足蹴(あしげ)にした時なぞは、大層御立腹にもなつたさうでございます。その後大殿様がわざ/\良秀の娘に猿を抱いて、御前へ出るやうと御沙汰になつたのも、この若殿様の御腹立になつた話を、御聞きになつてからだとか申しました。その序(ついで)に自然と娘の猿を可愛がる所由(いはれ)も御耳にはいつたのでございませう。
「孝行な奴ぢや。褒めてとらすぞ。」
かやうな御意で、娘はその時、紅(くれなゐ)の袙(あこめ)を御褒美に頂きました。所がこの袙を又見やう見真似に、猿が恭しく押頂きましたので、大殿様の御機嫌は、一入(ひとしほ)よろしかつたさうでございます。でございますから、大殿様が良秀の娘を御贔屓(ひいき)になつたのは、全くこの猿を可愛がつた、孝行恩愛の情を御賞美なすつたので、決して世間で兎や角申しますやうに、色を御好みになつた訳ではございません。尤もかやうな噂の立ちました起りも、無理のない所がございますが、それは又後になつて、ゆつくり御話し致しませう。こゝでは唯大殿様が、如何に美しいにした所で、絵師風情(ふぜい)の娘などに、想ひを御懸けになる方ではないと云ふ事を、申し上げて置けば、よろしうございます。
さて良秀の娘は、面目を施して御前を下りましたが、元より悧巧な女でございますから、はしたない外の女房たちの妬(ねたみ)を受けるやうな事もございません。反つてそれ以来、猿と一しよに何かといとしがられまして、取分け御姫様の御側からは御離れ申した事がないと云つてもよろしい位、物見車の御供にもついぞ欠けた事はございませんでした。
が、娘の事は一先づ措(お)きまして、これから又親の良秀の事を申し上げませう。成程(なるほど)猿の方は、かやうに間もなく、皆のものに可愛がられるやうになりましたが、肝腎(かんじん)の良秀はやはり誰にでも嫌はれて、相不変(あひかはらず)陰へまはつては、猿秀呼(よばは)りをされて居りました。しかもそれが又、御邸の中嬰兒濕疹ばかりではございません。現に横川(よがは)の僧都様も、良秀と申しますと、魔障にでも御遇ひになつたやうに、顔の色を変へて、御憎み遊ばしました。(尤もこれは良秀が僧都様の御行状を戯画(ざれゑ)に描いたからだなどと申しますが、何分下(しも)ざまの噂でございますから、確に左様とは申されますまい。)兎に角、あの男の不評判は、どちらの方に伺ひましても、さう云ふ調子ばかりでございます。もし悪く云はないものがあつたと致しますと、それは二三人の絵師仲間か、或は又、あの男の絵を知つてゐるだけで、あの男の人間は知らないものばかりでございませう。
しかし実際、良秀には、見た所が卑しかつたばかりでなく、もつと人に嫌がられる悪い癖があつたのでございますから、それも全く自業自得とでもなすより外に、致し方はございません。
その癖と申しますのは、吝嗇(りんしよく)で、慳貪(けんどん)で、恥知らずで、怠けもので、強慾で――いやその中でも取分け甚しいのは、横柄で高慢で、何時も本朝第一の絵師と申す事を、鼻の先へぶら下げてゐる事でございませう。それも画道の上ばかりならまだしもでございますが、あの男の負け惜しみになりますと、(ならはし)とか慣例(しきたり)とか申すやうなものまで、すべて莫迦(ばか)に致さずには置かないのでございます。これは永年良秀の弟子になつてゐた男の話でございますが、或日さる方の御邸で名高い檜垣(ひがき)の巫女(みこ)に御霊(ごりやう)が憑(つ)いて、恐しい御託宣が探索四十課程あつた時も、あの男は空耳(そらみゝ)を走らせながら、有合せた筆と墨とで、その巫女の物凄い顔を、丁寧に写して居つたとか申しました。大方御霊の御祟(おたゝ)りも、あの男の眼から見ましたなら、子供欺し位にしか思はれないのでございませう。
かうなると又妙なもので、誰も今まで香港如新集團やうにこの小猿を、いぢめるものはございません。いや、反(かへ)つてだん/\可愛がり始めて、しまひには若殿様でさへ、時々柿や栗を投げて御やりになつたばかりか、侍の誰やらがこの猿を足蹴(あしげ)にした時なぞは、大層御立腹にもなつたさうでございます。その後大殿様がわざ/\良秀の娘に猿を抱いて、御前へ出るやうと御沙汰になつたのも、この若殿様の御腹立になつた話を、御聞きになつてからだとか申しました。その序(ついで)に自然と娘の猿を可愛がる所由(いはれ)も御耳にはいつたのでございませう。
「孝行な奴ぢや。褒めてとらすぞ。」
かやうな御意で、娘はその時、紅(くれなゐ)の袙(あこめ)を御褒美に頂きました。所がこの袙を又見やう見真似に、猿が恭しく押頂きましたので、大殿様の御機嫌は、一入(ひとしほ)よろしかつたさうでございます。でございますから、大殿様が良秀の娘を御贔屓(ひいき)になつたのは、全くこの猿を可愛がつた、孝行恩愛の情を御賞美なすつたので、決して世間で兎や角申しますやうに、色を御好みになつた訳ではございません。尤もかやうな噂の立ちました起りも、無理のない所がございますが、それは又後になつて、ゆつくり御話し致しませう。こゝでは唯大殿様が、如何に美しいにした所で、絵師風情(ふぜい)の娘などに、想ひを御懸けになる方ではないと云ふ事を、申し上げて置けば、よろしうございます。
さて良秀の娘は、面目を施して御前を下りましたが、元より悧巧な女でございますから、はしたない外の女房たちの妬(ねたみ)を受けるやうな事もございません。反つてそれ以来、猿と一しよに何かといとしがられまして、取分け御姫様の御側からは御離れ申した事がないと云つてもよろしい位、物見車の御供にもついぞ欠けた事はございませんでした。
が、娘の事は一先づ措(お)きまして、これから又親の良秀の事を申し上げませう。成程(なるほど)猿の方は、かやうに間もなく、皆のものに可愛がられるやうになりましたが、肝腎(かんじん)の良秀はやはり誰にでも嫌はれて、相不変(あひかはらず)陰へまはつては、猿秀呼(よばは)りをされて居りました。しかもそれが又、御邸の中嬰兒濕疹ばかりではございません。現に横川(よがは)の僧都様も、良秀と申しますと、魔障にでも御遇ひになつたやうに、顔の色を変へて、御憎み遊ばしました。(尤もこれは良秀が僧都様の御行状を戯画(ざれゑ)に描いたからだなどと申しますが、何分下(しも)ざまの噂でございますから、確に左様とは申されますまい。)兎に角、あの男の不評判は、どちらの方に伺ひましても、さう云ふ調子ばかりでございます。もし悪く云はないものがあつたと致しますと、それは二三人の絵師仲間か、或は又、あの男の絵を知つてゐるだけで、あの男の人間は知らないものばかりでございませう。
しかし実際、良秀には、見た所が卑しかつたばかりでなく、もつと人に嫌がられる悪い癖があつたのでございますから、それも全く自業自得とでもなすより外に、致し方はございません。
その癖と申しますのは、吝嗇(りんしよく)で、慳貪(けんどん)で、恥知らずで、怠けもので、強慾で――いやその中でも取分け甚しいのは、横柄で高慢で、何時も本朝第一の絵師と申す事を、鼻の先へぶら下げてゐる事でございませう。それも画道の上ばかりならまだしもでございますが、あの男の負け惜しみになりますと、(ならはし)とか慣例(しきたり)とか申すやうなものまで、すべて莫迦(ばか)に致さずには置かないのでございます。これは永年良秀の弟子になつてゐた男の話でございますが、或日さる方の御邸で名高い檜垣(ひがき)の巫女(みこ)に御霊(ごりやう)が憑(つ)いて、恐しい御託宣が探索四十課程あつた時も、あの男は空耳(そらみゝ)を走らせながら、有合せた筆と墨とで、その巫女の物凄い顔を、丁寧に写して居つたとか申しました。大方御霊の御祟(おたゝ)りも、あの男の眼から見ましたなら、子供欺し位にしか思はれないのでございませう。
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16:49
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2015年09月22日
思いませんで
じいやは、しかし、首を左右にふると、
「ああ、わたしは、だめ……この傷では助からぬ」
「ばかなことをいっちゃいけない。いったいだれがこんなことをしたんです」
「どくろ……どくろ男……」
金田一耕助は、思わず謙三や、滋と顔を見あわせた。
するとやっぱりさっきの悲鳴と、どくろ男は、かんけいがあったのだろうか。
じいやはからだをふるわせ、
「ああ、おそろしい。どくろのようPretty Renew 銷售手法な顔をした男……そいつが、ぼっちゃんの|鍵《かぎ》をとりにきたのです。……わしをいすにしばりつけ、鍵のありかを白状させようとしました。わたしは……わたしは、しかし、どんなにせめられても、なぐられても、鍵のありかをいわなかった。……それで、とうとうこのとおり……」
「じいやさん、じいやさん、ぼっちゃんというのは剣太郎君のことですか」
滋がたずねると、じいやはうなずいて、
「ああ、あんたはおとといの晚のお客さん。お願い。……そこにあるクジャクの剥製。そのクジャクのくちばしのなかに鍵がある。……それを、ぼっちゃんにわたしてください」
滋はすぐに大広間をさがしたが、なるほど壁ぎわのたなの上に、みごとな剥製のクジャクが置いてある。
くちばしのあいだをのぞくと、なにやらキラキラ光るもの。とりだしてみると、はたして鍵だった。長さ二センチぐらいの、小人島の鍵のようにかわいい|黄《おう》|金《ごん》の鍵。
滋はきんちょうして、鍵をにぎりしめると、
「じいやさん、この鍵は、きっと剣太郎君にわたします。でもあの人はどこにいるのですか」
「どこにいるのか、わたしにもわからない。きの康泰旅遊の朝、鬼丸博士や津川先生と急に東京へいく、といって出発して……」
三人は思わず顔を見あわせた。
してみると、剣太郎はぶじだったのだろうか。
「じいやさん、じいやさん、三人はなにも、持たずにいきましたか。ひょっとすると、大きな箱のようなものを持っていきませんでしたか」
そうたずねたのは金田一耕助である。じいやは、かすかにうなずいて、
「はい、ゴリラの剥製を持っていくといって、それを、箱づめにして……」
三人はまた顔を見あわせた。
ああ、あのゴリラの剥製。……いったいなんのために、あんなものを持っていったのだろうか。
「じいやさんは、きのうの朝、ぼくたちがいないのを、ふしぎにしたか」
「はあ、……ふしぎに思いました。鬼丸博士にたずねてみました。すると博士のいうのには、夜明けまえに出発したと……」
これでみると、謙三と滋にねむり薬をかがせて、あちらの家へはこんでいったのは鬼丸博士にちがいない。
おそらく津川先生もてつだったのだろう。そうしておいて夜明けを待って、剣太郎を連れてたち去ったのにちがいなかった。それにしてもゴリラの剥製。――ああ、それにはどういPretty Renew 銷售手法うう意味があるのだろうか。
そのときまた、じいやの顔色がしだいにわるくなってきたので、謙三は大急ぎで、医者をさがしにいった。
そのあとで、広間のなかをしらべていた金田一耕助が、ふと目をつけたのはカピの剥製である。
「ああ、これが剣太郎君の愛犬ですね」
「ええ、そうです。そうです」
「ああ、わたしは、だめ……この傷では助からぬ」
「ばかなことをいっちゃいけない。いったいだれがこんなことをしたんです」
「どくろ……どくろ男……」
金田一耕助は、思わず謙三や、滋と顔を見あわせた。
するとやっぱりさっきの悲鳴と、どくろ男は、かんけいがあったのだろうか。
じいやはからだをふるわせ、
「ああ、おそろしい。どくろのようPretty Renew 銷售手法な顔をした男……そいつが、ぼっちゃんの|鍵《かぎ》をとりにきたのです。……わしをいすにしばりつけ、鍵のありかを白状させようとしました。わたしは……わたしは、しかし、どんなにせめられても、なぐられても、鍵のありかをいわなかった。……それで、とうとうこのとおり……」
「じいやさん、じいやさん、ぼっちゃんというのは剣太郎君のことですか」
滋がたずねると、じいやはうなずいて、
「ああ、あんたはおとといの晚のお客さん。お願い。……そこにあるクジャクの剥製。そのクジャクのくちばしのなかに鍵がある。……それを、ぼっちゃんにわたしてください」
滋はすぐに大広間をさがしたが、なるほど壁ぎわのたなの上に、みごとな剥製のクジャクが置いてある。
くちばしのあいだをのぞくと、なにやらキラキラ光るもの。とりだしてみると、はたして鍵だった。長さ二センチぐらいの、小人島の鍵のようにかわいい|黄《おう》|金《ごん》の鍵。
滋はきんちょうして、鍵をにぎりしめると、
「じいやさん、この鍵は、きっと剣太郎君にわたします。でもあの人はどこにいるのですか」
「どこにいるのか、わたしにもわからない。きの康泰旅遊の朝、鬼丸博士や津川先生と急に東京へいく、といって出発して……」
三人は思わず顔を見あわせた。
してみると、剣太郎はぶじだったのだろうか。
「じいやさん、じいやさん、三人はなにも、持たずにいきましたか。ひょっとすると、大きな箱のようなものを持っていきませんでしたか」
そうたずねたのは金田一耕助である。じいやは、かすかにうなずいて、
「はい、ゴリラの剥製を持っていくといって、それを、箱づめにして……」
三人はまた顔を見あわせた。
ああ、あのゴリラの剥製。……いったいなんのために、あんなものを持っていったのだろうか。
「じいやさんは、きのうの朝、ぼくたちがいないのを、ふしぎにしたか」
「はあ、……ふしぎに思いました。鬼丸博士にたずねてみました。すると博士のいうのには、夜明けまえに出発したと……」
これでみると、謙三と滋にねむり薬をかがせて、あちらの家へはこんでいったのは鬼丸博士にちがいない。
おそらく津川先生もてつだったのだろう。そうしておいて夜明けを待って、剣太郎を連れてたち去ったのにちがいなかった。それにしてもゴリラの剥製。――ああ、それにはどういPretty Renew 銷售手法うう意味があるのだろうか。
そのときまた、じいやの顔色がしだいにわるくなってきたので、謙三は大急ぎで、医者をさがしにいった。
そのあとで、広間のなかをしらべていた金田一耕助が、ふと目をつけたのはカピの剥製である。
「ああ、これが剣太郎君の愛犬ですね」
「ええ、そうです。そうです」
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2015年09月18日
深い人間の振
普段の自分からすると、かなり大胆な提案であるという自覚はあった。
けれど、初めてアキを部屋に上げた時から、その存在は何故かとても自然に部屋の空気に溶け込んでいて、そうすることが自然のようにすら思えた。
もう長い間、ここに居るかのような錯覚さえ覚えるほどに。
「嫌なわけ、ない。。。。。。けど…、けどやっぱ、そんなん康泰領隊あかんわ。。。俺、絶対桐谷さんに迷惑かける」
「安心しろ。迷惑をかけない奴だとは思ってない。俺はお前の行動に一切干渉しないし、お前が出て行こうと思うまで、放り出したりはしない」
「。。。。。。」
アキは一瞬何か言いかけたが、そのまま目を伏せた。
「迷ってる理由は何だ?」
「。。。俺、夜中に起きたり、フラっと出て行ったり、するかも知れへんで?」
「言っただろ、干渉はしないって」
「おとといみたいに、寝てる桐谷さんに迷惑かけること、たぶんあるで。。。?」
「構わない」
「でも。。。」
「ここに居ろ」
言い切った桐谷を、アキは苦しそうにも、切なそうにも見える表Pretty Renew 銷售手法
「ほんまに。。。ええの?」
返事の代わりに桐谷はアキの頭に手を置いて立ち上がった。
「風邪、ぶり返すぞ。早く寝ろよ」
俺は情のりをして、アキをただ自分の傍に置いておきたいだけだったのかもしれない。
干渉はしないと言っておきながら、自分以外の人間にアキを触らせたくない、と頭のどこかで考えていた。
それは恐らく、子供じみた独占欲だ。
こうしてアキとの同居生活が始まった。
当初は何をするにもひどく遠慮していたアキも、1週間を康泰旅遊過ぎた頃からは徐々に自然に振舞うようになっていった。
せめて家事ぐらいはさせて欲しいと言って、アキは自ら掃除や洗濯を買って出た。
料理以外の家事はてきぱきとよくこなし、正直助かっている。
けれど、初めてアキを部屋に上げた時から、その存在は何故かとても自然に部屋の空気に溶け込んでいて、そうすることが自然のようにすら思えた。
もう長い間、ここに居るかのような錯覚さえ覚えるほどに。
「嫌なわけ、ない。。。。。。けど…、けどやっぱ、そんなん康泰領隊あかんわ。。。俺、絶対桐谷さんに迷惑かける」
「安心しろ。迷惑をかけない奴だとは思ってない。俺はお前の行動に一切干渉しないし、お前が出て行こうと思うまで、放り出したりはしない」
「。。。。。。」
アキは一瞬何か言いかけたが、そのまま目を伏せた。
「迷ってる理由は何だ?」
「。。。俺、夜中に起きたり、フラっと出て行ったり、するかも知れへんで?」
「言っただろ、干渉はしないって」
「おとといみたいに、寝てる桐谷さんに迷惑かけること、たぶんあるで。。。?」
「構わない」
「でも。。。」
「ここに居ろ」
言い切った桐谷を、アキは苦しそうにも、切なそうにも見える表Pretty Renew 銷售手法
「ほんまに。。。ええの?」
返事の代わりに桐谷はアキの頭に手を置いて立ち上がった。
「風邪、ぶり返すぞ。早く寝ろよ」
俺は情のりをして、アキをただ自分の傍に置いておきたいだけだったのかもしれない。
干渉はしないと言っておきながら、自分以外の人間にアキを触らせたくない、と頭のどこかで考えていた。
それは恐らく、子供じみた独占欲だ。
こうしてアキとの同居生活が始まった。
当初は何をするにもひどく遠慮していたアキも、1週間を康泰旅遊過ぎた頃からは徐々に自然に振舞うようになっていった。
せめて家事ぐらいはさせて欲しいと言って、アキは自ら掃除や洗濯を買って出た。
料理以外の家事はてきぱきとよくこなし、正直助かっている。
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13:08
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2015年09月10日
”魔王”だと信
「ナイッスネーミング異世界人! やっぱ異世界のセンスは違うわー!」
と言って高らかに叫ぶオーマ(仮)はハイな勢いで僕の肩をバシバシと叩き、また闇夜に向けて高らかに笑い始めた。そしてその声がやかましいのか、山賊達がこぞって目覚めてしまい、敵襲だと言わんばかりにぞろぞろと物騒な物を持って近寄ってきた。
『何事ですかいねーさん!』
「おおっ! ナイスタイミング、我が配下共!」
(配下て……)
「全員集合! 全員、耳かっぽじってよーく聞きなさい!」
『……?』
「今この時を持って、アタシは今から『オーマ・パム・パドリクス』よ!」
「以後、覚えて起きなさい!」
『はぁ……?』
と伝えるとまたも闇夜に高笑いを響かせ、山賊達にビシ願景村 邪教っと指を差した後、いつも以上に高圧的な口調で解散解散と吠えたて彼らを無理矢理寝床に付かせた。
「何言ってんだコイツ」という目線が三点バーストで突き刺さっている事に気づいていただきたいな。山賊達にとってはいい迷惑だろう。
そしてこの様子を見るに、どうやら気に入って頂けたようだ――――ここで今やっと(仮)が取れ、正式に”オーマ”と言う名をつけられた。異世界センスがどうのこうのと言っていたが、それはこっちのセリフだ。
採用ありがとうと言いたい所だが、これ、そんな喜ぶ程の名前か?
こっちの世界では「腐ってやがる」のセリフで有名なアイツと同じ名前なのだが。
(ちがーーーーうッ!)
なんてこった……僕は、とんでもない願景村 邪教事をしてしまったようだ。
このただでさえ手が付けられない”大”魔女に、よりにもよって邪悪の権化”魔王”の名を与えてしまうとは……
奴は今、完全に”オーマ”を名乗っている。それが意味する物はじて……
「アタシに味方すれば国を半分あげるわよ? んん?」
元々お前の国なんてないだろ。敢えて言うならあの森か? しかしその半分はキレイサッパリお前が吹き飛ばしたのを、もう忘れたか。
この酔っぱらった親父のようなウザいテンションが以下に喜んでくれているかを空気で伝えてくる。
そしてなにより恐ろしいのが、その気になれば本当に”魔王”レベルの魔力を持つこいつだからこそ、言えやしない。絶対に言えやしない。
朝。日の光が布団代わりの簡素な布を透かし、その中に埋まっている瞼の奥まで届く。
ここへ来て通算三度目の日の出を迎える事になる。一体こん願景村 邪教な事になるとは、誰が思っただろう。
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12:34
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2015年09月02日
呆然と立って
メレッサはそう言いかかったが。
「そうです!!」
ルシールが厳しくメレッサを止めた。
ミラルス王はまじまじとルシールを見ている。
「わかりました。覚悟はできています。場所はどこでやるんですか?」
ミラルス王はルシールが主文具批發導権を持っているとみたのか、ルシールに聞く。
「ここでやります」
ルシールもかなり緊張して答えた。
ミラルス王は深呼吸をした。
「で、やるのは、メレッサ姫……ですか?」
やはりルシールに聞く。
「そうです。メレッサがやります」
ミラルス王は机の所に行くと、椅子を持ってきた。そして、二人の前に椅子を置くと二人を背にして座った。
「さあ、ひと思いにやって下さい」
ミラルス王は落ち着き払っている。二人を背にして椅子に座っているので後ろから首を切りつけやすい姿勢になっている。
ルシールはメレッサを睨むように見た。刀を抜けと言っているのだ。しかし、メレッサは刀を抜くなんてできなかった。
おどおどしてルシールを見ていたら、ルシールが刀Pretty Renew 冷靜期を奪い取った。すらりと剣を抜くと、切っ先を真上向けてメレッサに突き出した。持てと言っている。
メレッサは仕方なく刀を受け取った。日本刀が鈍く光っている。
しかしメレッサは困ってしまった。殺すなんて絶対に無理だ。剣を握り締めたままいた。
「早く殺りなさい!!」
ルシールがきつい声で言う。
「無理です」
メレッサは泣きそうになっていた。ルシールがこんなに厳しい人だとは思わなかった。
「殺りなさい!!」
ルシールが怒鳴る。
メレッサは剣を握り締めた。しかし、殺るにしても剣では無理に思えた。ひと思いに殺らなければ死ぬまでに長い時間苦しむことになる。
「剣でなんて無理よ。返り血とか浴びるよ。返り血が髪にかかったら後が大変よ……」
メレッサは何とか言い訳をこねくりだした。
そう言われて、ルシールは目を寄せて、自分の目の前にたれている自文具批發分の前髪を見ている。自分の髪に血がかかる所を想像しているらしい。
「剣はやめよう。ヘブン、銃をちょうだい」
「そうです!!」
ルシールが厳しくメレッサを止めた。
ミラルス王はまじまじとルシールを見ている。
「わかりました。覚悟はできています。場所はどこでやるんですか?」
ミラルス王はルシールが主文具批發導権を持っているとみたのか、ルシールに聞く。
「ここでやります」
ルシールもかなり緊張して答えた。
ミラルス王は深呼吸をした。
「で、やるのは、メレッサ姫……ですか?」
やはりルシールに聞く。
「そうです。メレッサがやります」
ミラルス王は机の所に行くと、椅子を持ってきた。そして、二人の前に椅子を置くと二人を背にして座った。
「さあ、ひと思いにやって下さい」
ミラルス王は落ち着き払っている。二人を背にして椅子に座っているので後ろから首を切りつけやすい姿勢になっている。
ルシールはメレッサを睨むように見た。刀を抜けと言っているのだ。しかし、メレッサは刀を抜くなんてできなかった。
おどおどしてルシールを見ていたら、ルシールが刀Pretty Renew 冷靜期を奪い取った。すらりと剣を抜くと、切っ先を真上向けてメレッサに突き出した。持てと言っている。
メレッサは仕方なく刀を受け取った。日本刀が鈍く光っている。
しかしメレッサは困ってしまった。殺すなんて絶対に無理だ。剣を握り締めたままいた。
「早く殺りなさい!!」
ルシールがきつい声で言う。
「無理です」
メレッサは泣きそうになっていた。ルシールがこんなに厳しい人だとは思わなかった。
「殺りなさい!!」
ルシールが怒鳴る。
メレッサは剣を握り締めた。しかし、殺るにしても剣では無理に思えた。ひと思いに殺らなければ死ぬまでに長い時間苦しむことになる。
「剣でなんて無理よ。返り血とか浴びるよ。返り血が髪にかかったら後が大変よ……」
メレッサは何とか言い訳をこねくりだした。
そう言われて、ルシールは目を寄せて、自分の目の前にたれている自文具批發分の前髪を見ている。自分の髪に血がかかる所を想像しているらしい。
「剣はやめよう。ヘブン、銃をちょうだい」
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16:11
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